水平線を望む迫力のビューウインドウ

小樽市内の住宅地の一角に海を背にして建つMさんの家。アジアンテイストの小物が並ぶリビングに足を踏み入れるなり、目に飛び込んできたのは窓いっぱいに広がる日本海です。離れた位置に立つと人工的な建造物は全く見えません。


取材当日、Mさんのリビングの窓からの眺めに見とれていたら、本州に向けて豪華フェリーが港を出るところだった

 

避暑地にいるかのような非日常的な光景に圧倒される記者を見て「豪華客船が航行していく姿は見応えがありましたよ」と語りかけるMさん。

この海が見えるビューウインドウ、恵まれたロケーションを最大限に生かせるよう、リビングの張り出し部分の壁に通風用の縦長の窓を新たに設けました。

海風が入る北西の角に2つの開口部をコーナーに沿って直角に配置したおかげで視界がグッと広くなり、風通しも良くなったといいます。手前にはパソコンデスクを造作。

 


リビングの窓は、通風用の窓(写真左)を新たに設けたため、視界がワイドに広がる。なんとも贅沢な眺め

「ここから海を眺めながらのティータイムは格別。友達にもリゾートに来たみたいって言われます」。

台所からも、浴室からも海が見える窓があり、恵まれた立地条件を最大限に生かした設計です。

 

昔の面影を残しながら現代風に

M邸のリフォームはご両親が建てた築30年の2階建て建物を平屋に減築し、全体を断熱改修する大がかりな工事。内外装・水廻り・設備も一新しました。


赤と茶色の外壁が、庭の緑によく映える。この家に合わせて庭を造ったようだ

「冬の寒さに耐えられなくなってきたのでリフォームしました」とMさんは言います。海を望む高台ということは、浜風に吹きさらされることにもなります。断熱の不十分でしかも広すぎる2階建ての元の家は、暖房費もかさみ大変でした。

断熱改修だけでなく、オール床暖房にしたのもポイント。パネルヒーターが室内にないので、和室の縁側や海側の窓下に造作したパソコンデスクなど、パネルヒーターがあるとできなかった自由なプランが実現しました。

このM邸を建てたのは、当時こだわりがあることで知られた小樽の大工さん。「最近では手に入らない良い木を使っていました。階段の手すりや和室の造作も手が込んでいたと思います。晃和住宅さんに『生かせるところはなるべく生かして下さい』とお願いしました」。

水廻りは大幅に変更しましたが、間取りは基本的に変わっていません。南向きの和室の北側に居間があり、その隣に半透明の引き戸でさっと仕切れる台所があります。モダンになったリビングも木の座卓が置かれていて、床に座る生活はそのままに。


リフォーム前の外観とリビング・キッチンの写真。外観は、隣の家と同じくらいの屋根高だったことがわかる

30年前の新築時に造った神棚は磨いただけでそのままですが、さり気なく新しい部屋に溶け込んでいます。モダンなのに古くからのものも似合う不思議な魅力がありますね。

庭と調和する新しい外観

平屋建てですが、一部の天井を高くして明かり取りの高窓を設けているので部屋が明るくなりました。道路側から建物を見ても高さがあり、2階建てと見間違う堂々とした外観です。


和室からリビング側を見る。和室は天井も床柱も創建当時のまま。磨きあげるだけで風格が増した

玄関収納、リビング収納やテレビ台などは大工さんが造作しています。フラットでシンプルなデザインで、実用性も高そうです。「おかげで家具を買う必要はありませんでした」とMさん。

良質な木材が使われている真壁造の和室は柱・梁、床柱などを磨き直して再利用。中央に数寄屋調の細工を施した天井もとっておくことにしました。道路に面した庭にも手を付けていませんが「以前より建物とのバランスが良くなった」というMさん。「外壁の赤と庭木の緑のコントラストのせいかも。好きな色を選んだら上手くまとまりました」。

 

自然素材にこだわったインテリア

親族にアレルギーの人がいるため、内装材も自然素材にこだわりました。居室は珪藻土の塗り壁。リビングはコテムラを残してザックリと、和室はワラを混ぜて独特の渋さを表現しています。

 


リビングの天井はパインの羽目板、壁は珪藻土を塗っている。ルーバー状になっている部分は、高窓からの光を室内に採り入れる役割もある

「現場で左官屋さんに実際に塗ってもらい、ワラの分量を確認しました。少しの加減で見た感じが全く違うところが面白かった」とMさん。

畳はい草アレルギーの心配がなく、しかもい草よりも耐久性が高い特殊な和紙の畳表を使っています。


シンプルなデザインの造作収納と木製サッシ。造作収納は多く、家具は買わなくても良いぐらいだ

床も無垢材にしました。リビングや玄関、ユーティリティーの天井はパインの羽目板を使い、ナチュラルなイメージを強調しています。

ユニークなのがベッドルームに隣接したトイレ付きのサニタリールーム。その先が海の見える浴室。車椅子の使用を想定した提案だそうです。はじめは便器の周りに囲いがないことに抵抗があったMさんですが「慣れると広くて使いやすい。欧米の住宅みたいな感覚ですね」。作り手側がいろいろ知恵を絞ってくれるのが伝わってきたといいます。


ユーティリティーから浴室を見る。外にはオーシャンビューが広がってリゾート気分

「まだ冬を越していないので暖かさの違いは実感できませんが、この夏はとても爽やかで涼しいぐらい。帰宅するのが楽しくなりました。住んでいるうちにまた違った良さを発見できるかもしれません」(Mさん)。